なんとも見事な、豪華絢爛さと絶好のロケーションを併せ持った本部が完成し、丁度1ヶ月。
記憶にも新しい、GDとの抗争の際に宿泊していたスイートルームにも劣らないような、最高級の部屋が幹部たちの部屋として用意されているが、
一部の人間以外はトラブルが発生した時以外には使用していない状態となっている。
・・・その些細な選択ミスにより、後日自分たちの身に災いが降りかかる結果になるなど、1ヶ月前の彼らはどうしたら
気づくことができたのだろうか。
被害者A・B・C
ある日の本部での風景。
「ジャン、ネクタイ緩んでるぞ」
「・・・あ〜なんか長時間してると息苦しいんだよな、やっぱ」
「他の人間の目のある場所ではあげとけ・・・ほら」
ベルナルドが苦笑を浮かべながら、ジャンの首元へと手を伸ばした。
直されることを予想して抵抗を試みようとジャンが顔を背けたが、ベルナルドの長い指は戸惑うことなくジャンの頬へと伸び・・・
ゆっくりと優しく振り向かされ、視線を合わせられた。
「こら・・・直してやるから」
甘すぎるくらいの視線で、甘すぎる声色で、ベルナルドは笑う。
左手はジャンの美しい髪を撫でるオマケ付きで。
「・・・俺はガキじゃないぜ?」
「おやおや・・・俺が子供相手にこういうことをするとでも?」
柔らかな肌を楽しむかのように、ベルナルドの指先はジャンの輪郭をゆっくりとなぞり、そのまま親指はふっくらとした唇へと。
「んッ・・・」
下唇のラインを焦らすように何度か撫でられると、ジャンは目を細めて耐え切れなかった声を漏らしてしまった。
薄く開いた唇から覗いた小さな赤い舌先に、ベルナルドの笑みがさらに深まる。
自分だけに向けられる独特な笑みの理由にゾクリとして、ジャンの目元が朱に染まった。
「可愛いな・・・ジャン」
「エロ親父・・・・・」
「ひどいな・・・ただお前を甘やかしたくてたまらないだけなのに」
その言葉の一つにまで、甘さが漂っているから困ったものだ。
・・・それを嬉しいと感じてしまうほど毒されてしまっている自分自身が何だかおかしくて・・・悔しいが、やっぱり嬉しくて。
「・・・ほら」
僅かに頬まで桜色に染めたジャンは、視線を彷徨わせながらも了承するように自らの首元へベルナルドの手元を導いた。
「・・・あんま・・・きつく締めんなよ」
「了解、ハニー」
その指先がネクタイに触れようとした、瞬間。
「だぁ−−−−−−−−−−!!」
全力のイヴァンの雄叫びが、完全防音のジャンカルロの執務室に空しく響いた。
「お、おお、おまえら、何なんだよ!!!」
怒りなのかかすかに体を震わせながら、着任したばかりのボスと、自分より地位の上である幹部筆頭を思い切り指差す。
「「なにが(だ)?」」
本人たちの声が見事にハモったことにイヴァンは立ち眩みを起こしたらしい。
隣にいたルキーノは二人に対してかイヴァンに対してか小さなため息を漏らし、ジュリオに至っては一見いつもの無表情だが、
どこか不満げな色が見える。
・・・ボスと幹部の揃った、CR:5幹部会の休憩中のこの騒ぎは、防音加工のおかげで他の者には一切気づかれていないことは
彼らの威厳のためにはたしかに救いだったろう。
本部が完成してから、この本部に定住することを選んだのはジャンとベルナルド(と、ドン・アレッサンドロ)だけだった。
元々彼らの軽口やイヴァンへのからかいも含めたジョークは、(イヴァンを除いて)見慣れたものだったはずだ。
イヴァンも耐性が多少はできたらしく、最近では「ホモホモ・・・!!」と以前のように見苦しく叫ぶことはなくなっていた、が。
(・・・これは、1ヶ月前よりも本格的かつ、破壊力が増している・・・)
と、その場にいた幹部3人は理解した。
短時間での定例幹部会は頻繁に行っていたが、久々の長時間での、このような休憩を挟んでまで行うような会議は本部が完成して
からは初めてである。
さらに言うならば、会議中はベルナルドもジャンもまったくもって以前と変わらなかった。
それが休憩に入った途端、何かのスイッチが入ったかのように甘い雰囲気が駄々漏れ状態だ。
皆この2人の関係が軽口を叩く関係から、所謂、恋人になったのだろうことはしばらく前から察知していた。
主にベルナルドのジャンに対する視線の異常な甘さや、口調、あとは他幹部への牽制だろう厳しい視線が理由ではあったが。
しかし、それにしても、これはあまりにも・・・。
「ベルナルド、お前、寝不足だろ?目の下、少しクマできてるぜ・・・昨日、寝てないのか?」
「少しは寝たさ。明け方にここに戻ってきたからな・・・ごめん、行けなくて」
「別に・・・約束、昨日はしてなかっただろ」
「でも、待っててくれたんだろ?・・・分かる」
「・・・たまたま、眠れなかっただけだし。それに、どうせお前が戻ってくるまで、もたなかったし」
薄っすら頬を染めたままジャンは小さな声で綺麗な唇を尖らせて反論するが、無論、それに説得力の欠片もなかった。
ベルナルドを見つめる目は、無自覚だろうが、完全に恋するそれだ。
返す男の目も、同じく・・・いや、ジャンよりも遥かに強い色を灯している。
「今日は・・・部屋、来るか?」
「嬉しいな、お誘いかい?ハニー・・・今日はこの会議が終わったら丸々空くんだ・・・お前もだろ?」
「は?!いや、俺はそうだけど・・・お前、なんで・・・この前聞いた時はしばらくゆっくりできないって・・・」
「昨日でどうにか一区切りついてね・・・なんだ、喜んるのは俺だけか?」
視線を絡めながら、顔の距離を近づけて。
ジャンの髪の撫でていた手がゆっくりとその体を引き寄せる。
抵抗するどころかジャンはますます笑みを深めると、自らもベルナルドの首へ両腕を回し、彼の胸元に体を摺り寄せた。
「・・・ばっか・・・嬉しいっつーの、ダァリン」
「喜んで頂けたのなら光栄です、姫・・・」
ちょっとちょっとちょっと!
完全にこの2人、自分たち以外の存在を消し去っている。
(これは新手の嫌がらせ・・・か?)
(ジャン、さん、可愛い・・・ベルナルド、ズルイ・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・・)
呆れた表情をしながら軽く考え込むルキーノと、ジャンを普段よりも少し熱い目で見つめるジュリオ。
イヴァンはあまりの衝撃に、石化状態で固まってしまっている。
1ヶ月までは、他幹部たちの前ではこのようなことはなかった。
多少は目に余ることはたしかにあったが、こんな周囲の存在を無視するかのようなことは。
理由は、容易に想像がついた。
まず、あの事件以来、慌しくはあるが、比較的平和な日々が続いていること。
ベルナルド一人で統括していた通信システムを部下へ分割化したことにより、ベルナルドの拘束時間が劇的に減ったこと。
そのため、幹部筆頭としてボスのサポート(現時点では指導という表現が適正ではあるが)が最重要かつ最優先となった。
加えて、本部の完成・・・2人はここに定住している。そして、幹部と、守護するべきボス専用の部屋はすべて同じ階に作られている・・・・
他幹部は一切利用していない2人だけしかいない階で、そもそも、別々の部屋で寝ている日がどの程度あるのか不明だが。
何より、この本部内で、他幹部の目もないこの場所で、彼らは日増しに感覚が麻痺していったのかもしれない。
(アレッサンドロは最初はここに定住していたが、GDの爪跡も薄れ始めた頃に、
邸宅を購入し、強引にそこへ移り住んでしまった)
幹部たちの目もない、アレッサンドロもいない、彼らが気にする存在はここにはいない。
・・・しかも、当然だが彼らの利用している幹部たちとボス専用の部屋は完全防音。なんだこれは、バカップルのパラダイスか。
会議中にはこの甘すぎる雰囲気を出さなかったのは、無意識の最後の理性なのだろうか。
あぁ、思い出せば、この2人の元への連絡諸々のために送ったそれぞれ部下たちが、何だか少し疲れていたり、頬を赤らめていたりしたことが
あったような・・・・・。
「ジャン・・・」
「ベルナルド・・・」
見つめあい、まるで今にも口づけを交わしてしまいそうな二人に、とうとう、キレた被害者が1名。
「おおおおおおおまえら・・・・い、いいい、いいかげん、に・・・!!」
石化から復活したイヴァンは、またもや2人を指差しながら、過去最高に言葉を詰まらせながらも叫んだ。
それに対し、ベルナルドはジャンに向けているものとは天と地ほども違うだろう冷たい視線を静かに向ける。
「イヴァン、ボスに向かってその態度は何だ・・・いくらお前でもボスに対し、そのような態度は許さんぞ」
お前が言うな!お前が!!
心の中で全員がハモッたが、残念なことにイヴァンは興奮しすぎて声を出すことができず、まるで金魚みたいに口を
パクパクさせている。
「ベルナルド、イヴァンのはあれは愛嬌みたいなもんだろうが」
「今はお前がボスになったんだ、あの態度はダメだ。・・・ボスは、他の男の肩をもつのですか?」
「こういう時に、ボスって言うな・・・・」
「ふはは・・・あぁ、ネクタイを直すのを忘れていたね」
愛しそうな微笑みを浮かべたベルナルドが、思い出したかのようにジャンの首元へと再度手を伸ばした、が。
直前で遮られた・・・イヴァンの手によって。
「いい加減にしろ・・・・このほ、ほ・・・!」
哀れな彼は、高まり過ぎた興奮と、ベルナルドの突き刺さるような視線のせいで言いたい単語が話せない。
しかしここで引いては負けだと思ったのだろう、強引な行動に出た。
「ネクタイくらい、俺がやってやる!」
さっきまでの口ぶりが嘘のように、一度も噛まずにそう宣言すると、ベルナルドの手を払い、そのままジャンへと指先を向けた。
ジャンはもちろん逃げるでもなく、そのままされるがままになりそうだったが。
「イヴァン」
空気が、静かに震える。
ゾクリと、悪寒が背筋を這うような。
「ジャンに、触るな」
気のせいだとは思うが、殺意さえ含まれるような声色。
直接動きを阻まれた訳ではないのに、思い切りビクッと体を震わせ、動きを止めてしまった。
・・・この時点で、イヴァンの負けは確定だった。
「今度軽々しくジャンに触れようとしたら・・・分かるな、イヴァン」
イヴァンを見る眼鏡の奥の瞳はとても同胞に向けているとは思えない、あまりに無機質な冷たすぎるそれで、
言葉と共に浮かべた毒々しい笑顔は、彼にトドメを指すには十分な効力だった。
再びフリーズ状態に陥ってしまったイヴァンには目もくれず、ジャンのネクタイを今度こそ綺麗に締めなおすと満足げに微笑む。
「あぁ、素敵だよ、マイスイート」
「・・・お前たち、休憩は終わったか?・・・・なんだ、どうかしたかの?」
ピンと張り詰めた空気が漂う中、重厚な扉を開ける音と共に、カヴァッリ顧問が姿を現した。
部屋の中の雰囲気がなにやらおかしいことに、器用に片眉だけを少し上げ、不思議そうにベルナルドへと視線で問いかける。
「いいえ、顧問、何も。・・・ただ、幹部同士の交流を少々」
本日の被害者。死亡者1名、軽症者2名。
CR:5・・・ボスと幹部筆頭関連の被害報告は、しばらく止むことはなさそうだ。
END.
はい、すみませんでした・・・・。勢いのままに書いたら、こんなアホな話に・・・・・・。
ベルジャンが大好きなんです。変態エロ眼鏡ことベルナルドが愛しくてたまらない。
ベルジャンならこれぐらい真剣に周囲を素で無視するくらいにバカップルになってもいいじゃない!
・・・なんて思いつつ書いてみました。
ジャンの後任幹部は誰なんだというツッコミはスルーにてお願い致します(笑)
お目汚し失礼致しました。
2009年6月27日