見下ろした瞳は、ひどく曖昧な色をしていた。
驚き、困惑、僅かな怯え……そんなものを混ぜこぜにした瞳でいながら、拒絶だけはその中にないのはたしかで、思わず口元が笑みを作り上げるのが自分でも分かった。
「……アンタ、今すげぇ目してる」
隠すことなく言葉にして伝えれば、男は感情を押し込めるように目を細め……けれど、視線を逸らすことはなく、真っ直ぐに見返してくる。硝子に覆われたその瞳は、理知的で…ひどく獰猛だ。
喉元にせり上がってきた歓喜に、クッ、と隠しきれなかった笑いが漏れた。
それを合図にしたかのように、今まで無言を保っていた男の口がゆっくりと動き出す。
「……そうだね、その自覚はあるよ。どうにも……理解しがたい状況、だからね」
「へぇ。アンタでも理解できねぇことなんてあるのかよ」
いつもの軽口を叩くようなノリで、敢えて、この男が好んでいるだろういつもの笑顔を浮かべて―――白い首筋にピタリと当てていたナイフを僅かに動かした。
皮膚はその感触を感じ取っているのだろう、触れるか触れないかのギリギリのラインを辿る動きに合わせて、少しだけ男の呼吸が速まる。先程よりも、焦りが表情に浮き出てくる…瞳は状況を少しでも理解しようと、何度も色を変えていた。
「そういう顔が見たかった」
顎先まで動かした刃先を、散らばった、淡く緑を灯した髪へと近づけ、円を描くようにクルクルと動かして、ナイフへと巻きつけていく。
「でもな」
グッとナイフに力を込める。
「それじゃ、足んねぇ」
そのままナイフを横へ動かせば、柔らかな髪の毛がゆっくりと切れていく。
かすかな痛みに細められ、探るように動く瞳に、やはり嫌悪や拒絶といった否定だけは現れない。
それでいい……満足気に、ジャンは華やかに笑みを浮かべた。
男の根底にあるものが、自分への信頼であろうと、それ以外のものであろうと、この状況を……ジャンを受け入れている事実が、最も重要なのだから。
「なぁ、おしゃべりしようぜ―――ベルナルド」